しすぷり入門

 ここではまず、『Sister Princess』(シスター・プリンセス、以下シスプリ)の基礎知識についてまとめておきたい。シスプリに全く関心のない人がここを読んでいるとは考えにくいが、シスプリとは一体何なのか、そんな人にもわかるように書いたつもりである。また、シスプリ?ああ知ってる知ってる、という人、もっとハッキリ書けばアニメだけ観てシスプリが分かったつもりになっている人。一番危険なのは、実はあなたのような人なのである。
 シスプリが誤解されやすいのは、最も手軽に享受できる媒体であるTVアニメがシスプリの本質からかけ離れた問題作であったことに始まり、次に普及したのがPS版のゲーム、そして電撃G’sマガジン、と、元を辿るほど媒体がマイナーになっていくのが原因なのであった。
 そもそもシスプリというのはいきなり12人の妹が出てきて一緒に暮らす話だと思っていたり、「あのアニメ観たけどどこが面白いの?」と言ってる人、あなたのシスプリは間違っている!と、筆者は声を大にして言いたいのである。

 『シスター・プリンセス』は元々、今や業界でほぼ唯一の総合ギャルゲー情報誌である月刊『電撃G’sマガジン』(メディアワークス刊)誌上で連載された読者参加企画である。インターバルを置きながら今なお連載中であり、ギャルゲー市場も不況の現在、同誌はシスプリによって命脈を保っている、と言っても過言ではない。
 雑誌発のメディアミックス企画が成功した例がない、などというのはすでに過去の話であり、G’sマガジンの企画は最初の『お嬢様特急』以来、ほぼ全てアニメ化、ゲーム化まで実現しているという事実も知っておくべきだろう。現在すでにシスプリの後の『ママプリ』(っていうな!)こと『Happy Lesson』(ジャンル:ママ先生)もゲーム、OVA化され、『Milky Season』(女子寮)もゲーム化決定、さらに次には『Merry Little Park !』(遊園地)が連載開始している、といった状況である。

 さて、シスプリ本来の媒体であるG’sマガジンの読者参加企画は、雑誌連載という形式上、“遅れてきた”シスプリファンにとっては追跡困難であり、ここでも各ユーザー層のシスプリ体験格差が生じる原因となっている。また、電撃G’sマガジンという雑誌自体、シスプリのユーザー層を考慮に入れたうえですら、あまりにも購買層が特殊であると言わざるをえず、そのため同誌は元祖シスプリ発信源でありながら、シスプリファンの踏み絵とも言うべき位置に甘んじている。逆に言えば、同誌を購読しているようであれば一定レベル以上のシスプリユーザーと見て間違いない。
 なお、この問題は各種ムック等関連書籍の発売によってある程度は解決を見た。これについては後述する。

ファーストステージ

 次にその、記念すべき「最初のシスプリ」の具体的な内容について述べる。
 電撃G’sマガジン1999年3月号より連載開始。当初の妹の人数は9人。最初に9人の妹の簡単なプロフィールを紹介した後、読者人気投票によるレースを展開しつつ、毎月1人を特集する、という形式をとったが、当時は9人もいて大変というニュアンスではなく、毎回人気投票を行う都合上頭数を揃えたというイメージであり、毎月1人ずつ取りあげるから楽しみにしてろという感じだった。実際に読者が参加した誌上ゲームについては詳細を省くが、eメールのやりとり、「お泊まり」イベントなど、PS版ゲームにも採り入れられた要素がすでにここにある。
 実作者は、絵は天広直人、文が公野櫻子。この二人が原作者としてクレジットされる。
 オフィシャルな設定は、“事情があって”妹とは別々に暮らしていて、2ヶ月に一度(「お兄ちゃんの日」)しか会えない、というだけで、その事情とやらは一切不明。また、公開された妹のプロフィールのうち具体的な項目は誕生日身長のみ。セオリー通りというか、最低限の情報のみ設定されており、それ以外の一切は読者の想像に任されていた。兄との血縁関係の有無についてすら企画サイドは明言を避けており、同誌上で大論争が巻き起こったほどである。また、「」の性質上、(3サイズはおろか)年齢すら確定しなかったことが後にシスプリ最大の謎を生むことになる。
 特筆すべきは、妹同士の横のつながりが一切なかったことである。特集される妹は毎回1人ずつで、そこで描かれるのはあくまで兄と妹、一対一の関係であり、他の妹が登場することは絶対になかった。その証拠に、同誌に霧賀ユキが描くディフォルメキャラによるマンガは「本連載では決して見ることのできない妹同士の会話シーン」を売りにしており、それ自体が一種のパロディとされていたのである。そして無論、読者自身が投影されるべき兄については妹より更に情報は少なく、無色透明の存在と言ってよい。
 従って、極論すれば9組の全く別の兄妹を描いたオムニバス形式の企画と解釈することすら、この時点では不可能ではなかったのである。

セカンドステージ

 2000年3月号、第二期シリーズの連載開始時に、新しい妹が3人増え(総勢12人ゲーム化が決定、とシスプリは最大の転機を迎える。毎号の特集も、一枚絵に申し訳程度のモノローグドラマが付いた第一期のものに対し、第二期では数ページに渡ってイラスト付きで展開するショートストーリーにボリュームアップした。基本的な路線は第一期シリーズを継承。天広直人氏の絵も、この頃には安心して見られるレベルになっている(失礼)。

PS版、ゲーム『シスター・プリンセス』(2001年3月8日発売)

 繰り返しになるが、ここまでのシリーズ展開においては、具体的な設定は血縁関係すら不明、妹同士の関係は不明どころか皆無、であったことをもう一度想起してもらいたい。然るに、このゲーム版では当然のごとく、妹全員を登場させる必然性から、12人全員が姉妹として一堂に会するというシチュエーションが遂に実現してしまった。そして、この設定はオフィシャルにも引き継がれることになる。
 ゲームの詳細については、別に解説のページを設けたので参照されたい。もともと独立したレビューとして書き始めたが収拾のつかなくなった原稿なので、別の切り口からのシスプリ論にもなっている(はず)。

キャラクターコレクション(メディアワークス刊、B6版、全12巻)

 遂に登場した、キャラ毎のイラストノベル単行本。時期的にはゲームの発売に前後して順次発売された。内容はG’sマガジン連載のイラストストーリーのいわば拡大版で、全編が妹のモノローグで語られている点も同じ。ただ、字はデカイものの約80ページというボリュームのため、文章量はケタ外れに多くなっている。その代わり(?)挿し絵の枚数は少なめ
 各巻7話の短編から構成され、ゲーム版と共通する設定、エピソードが多く見られるが、発売スケジュールから見てゲームのシナリオが上がってから書かれたものではないかと思われる。いや、単に天広氏の作画が遅れただけで、本文はずっと以前に脱稿していたのかもしれないが。ちなみに公野櫻子はゲームにも「シナリオ原案」としてクレジットされている。

TVシリーズ(放映:2001年4月〜9月、全26話)

 今までいることすら知らなかった12人の妹と突然同居生活が始まる、という、原作を逸脱した設定と、作品としてのクオリティそのものが物議を醸した。作画を修正したDVD(全9巻)がリリース中。
 …全話解説こちら

第三期シリーズ(2001年7月号〜連載中)

 最大の変化は、複数の妹が同時に登場するようになったこと。遂に原作で妹同士の絡みが実現。さすがに毎回全員が登場するわけではないが、ごく大雑把にいうと何人かの妹が一緒に兄に会いに行く、というパターンの話が多い。みな住んでいる家は別で、お互いの家を訪ねる描写などもある。これまでのシスプリ観を根底から覆しかねない変化だが、路線変更というよりゲームの設定がフィードバックされたものと思われる。
 基本的にゲームの設定はオフィシャルに取り込む方針らしい。となると今後の千影がどうなってしまうのか心配…。

各種ムック(メディアワークス刊、AB版、各1,500円)

 電撃G’sマガジン特別編集『電撃G’s PREMIUM』シリーズとして、3冊のムックが刊行されている。PS版の攻略本『ビジュアル&完全攻略ブック』は一応別として、『オフィシャルキャラクターズブック』は第一期の、『オリジナルストーリーズ』は第二期の連載をまとめて収録した内容。これによって、遅まきながら初期のシスプリが広く誰にでも体験できるようになったのは喜ばしい限りである。
 結論としては、シスプリ初心者はまずこのムックを読むことから始めることを奨める。

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