緊急レビュー:PS版『シスター・プリンセス』

ご存知の通り、このゲームは一般のギャルゲーと異なり相当に特殊な経緯で成立している。が、ひとまずはギャルゲーの基準で評価してみよう。
まず、完全フルボイスである点は高く評価できる。会話はもちろん、妹から送られてくるeメールですら本人の声で朗読されるという徹底ぶり。ヒロインが12人もいることを考えると、2枚組でよくここまでやれたものだと思う。ついでに書くなら、音声の豪華さに比べて音楽はかなり安いが、まあそこまで要求するのは酷というものだろう。
次にCG、これも12人分の総量(そして天広直人氏の仕事量)を考えれば枚数的には健闘しているというべきだろう。ただ、仕上げをゲームのスタッフがやっているためだろうか、絶好調時の天広氏の作画に比べると一部やや精彩を欠くようにも見える。立ちキャラも、着せ替えとはいえポーズも枚数も豊富なのだが、難をいえば原画を天広氏が描いてないせいか出来にややバラつきがある。
設定。主人公は一人暮らし高校生9人の妹がいるのだが、とある事情でそれぞれ別の家庭に預けられている。が、なぜか全員同じ町に住んでいたりもする。実の両親はというと、外交官として海外にいることがシナリオ中で明らかになる。
ストーリー。本編は2月12日からスタート。実質的には、バレンタインデーからの約1ヶ月間で一番仲良くしていた妹のエンディングを迎えるという構成。バレンタインの時点で、海外にいた3人の妹が新たに帰国。いきなり総勢12人に増えた妹全員からチョコを貰うというこのイベントが、事実上、12人の妹の紹介を兼ねた導入部となっている。主人公は普通にシスコンだし、妹達も絶対にありえないくらいみんな仲が良いので、シナリオは終始和やかな雰囲気で展開する。
ゲーム本編は、学校でのイベントをはさんで一緒に登校、下校すべく妹を選んで誘い、また放課後(休日は午前・午後)の自由行動は行き場所を選ぶのだが、どの場所で誰に会えるかはちゃんと画面に表示されているので安心。妹の居場所はシナリオ上固定されており、ランダムな要素もない。要するに妹を選んでいるだけでゲームが進むため、狙ったキャラの攻略はごく簡単である。はじめに本命の妹を一人だけ指名する「マイシスター」なるシステムがあるのだが、一部スペシャルイベントがある他は、通常の妹選択時にカーソルがデフォルトでそのキャラに合わせられるのが便利な程度で、あとは画面上の主人公の名前表記がその妹からの呼び名に合わせたものになる(例:「上海兄くん」)という、面白いがあまり意味のないシステムだった。
夜は自宅で妹から送られてくるeメール(このへん原作のモチーフ)をチェック。読むだけで強制イベントが発生して行動が拘束されたりするので、攻略上は本命キャラ以外のメールは一切読まないのが基本(笑)。もちろん、会話中、およびeメールに返信する内容の選択肢によってパラメータが変化し、エンディング分岐に影響することになる。
このゲームに、通常のギャルゲーでいう「好感度」の他に「血縁度」なる隠しパラメータが用意されているというのはウソのようなホントの笑い話である。つまり、主人公と妹との血縁関係設定上は確定しておらず、ゲームの展開によって変化し、エンディングで明らかになる。そのため、エンディングは血縁/非血縁2系統に分類される。
実は、システム上、最終的に誰のエンディングを迎えるかを決定する「好感度」は、単純にそのキャラのイベントを発生させるだけでアップする。そして、常識的に考えれば好感度に大きな影響を与えるはずの会話における選択肢は、実は「血縁度」にのみ影響するのである。しかも、ギャルゲーの常識に照らして明らかに「正解」と思われる選択肢を選ぶと血縁度は下がる仕組みになっている。
これらが何を意味するのかというと、ギャルゲーとしてのハッピーエンドの位置にあるのは明らかに非血縁のエンディングであり、逆に妹の興を削ぐような選択肢を選び続け嫌われれば嫌われるほど血縁度はアップし、結果、嫌われていても会う頻度が高いキャラの血縁エンディングを迎えることになるわけで、これではもはや血縁というよりくされ縁である。事実、普通のギャルゲー感覚で無難な選択肢を選んでプレーしているとまず確実に非血縁系のエンディングを迎えることになる。すなわち、実は血が繋がっていなかったことが判明してめでたしめでたし。これがシスプリのコンセプトと一般の需要とのギリギリの妥協点であった。
しかし、血が繋がっている方が望ましいと考えるユーザーがいるのも事実(?)である以上、このシステムは一方的な価値観の押し付けであると言わざるを得まい。もう一段、高い視点に立って、血縁・非血縁のいわばパラダイムシフトまでシステムに組み込んでほしかったと思うのは無理な注文だろうか(無理だよ)。
また、ややシチュエーションが設定に忠実すぎて、逆にシステム上、キャラの扱いの格差が大きいのも気になる。例えば、12人の妹のうち、一緒に登下校できるのは、主人公と同じ、あるいは近所の学校に通っている7人。さらにそのうち花穂白雪はそれぞれ早朝ランニング、チア部の練習見学、昼飯のイベントが毎日発生する。対して、休暇中(?)に帰国してきている新キャラ3人と、遠くの学校に通っているという千影、そして療養所にいる(!)鞠絵は日課となるイベントがない。鞠絵に至っては全編、療養所に入院しっぱなしのため、こちらから能動的なアプローチはほとんどできないのだった。
もう一つ、これも原作を踏襲したスペシャルイベント「お泊まり」についても言及せねばなるまい。好感度の高い妹から、家に泊まりにくるように誘われるというものである。大抵は、養家の両親が留守にするのでお兄ちゃんに泊まりにきてもらいなさい、というパターン。二人きりというのがミソである(?)。さらに!「一緒に寝るかどうか」という選択肢が存在し、「はい」を選ぶと一緒の布団で寝ることになるのだが、実は「いいえ」を選んだ場合は別に風呂を覗く(?)イベントが発生するという恐るべき仕掛けになっている。ただ、これもキャラによって例外がある(!)のが残念。また、なぜか一緒に寝ると非血縁(深く考えないこと)、風呂だと血縁の方にシフトするので注意。
エンディングは、血縁/非血縁の2系統にそれぞれノーマルとベストの2パターンがあり、各キャラ4種類×1248通りが存在する(厳密には亞里亞のみ3種類で、妹なしのバッドエンドを足した48パターンらしい)。
それから、エンディングテーマ『shining★star』がイイ。12人で歌ってるつーだけで個人的にはたまらんのだが、歌詞もシスプリのコンセプトに実によく合っている。ちゃんと妹の歌になってるよ。そういう含みで発注したのかな。名曲である。

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